卜部が家に遊びに来た。

父さんも姉さんも出かけていて

今は僕と卜部の二人っきり。

ヒャッキーの写真集やエロ本を切り刻まれた

あのダブルパンツハサミ事件以来だ。

「じゃあ、お茶入れてくるからゆっくりしててよ」

「ありがと」

「…ちなみにもう隠し持ってたりしてないからな、探しても無駄だぞ」

「分かってるわ、あの時は少し妬いちゃっただけだから」

(卜部、やっぱ独占欲強いんだな…)

そんなことを思いながら、ちょっとしたおもてなしを部屋に運んだ。

「はい、どーぞ」

「ありがと、これは…?」

「巨峰だよ、父さんの実家から昨日送られてきたんだ」

「いいの?」

「もちろん、卜部に食べてもらいたくて持ってきたんだから」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

巨峰の房から一粒取ってそれをしばらく眺める卜部。

「ど、どうしたの?虫でもついてた?」

果実を見つめたまま口にしないので気になった。

「ううん、違うの」

「ねぇ椿くん」

卜部は視線を僕に向けた。

「椿くんは皮ごと食べる?それとも皮をむく?」

(皮をむく…その台詞、なんだかすごくエッチです///)

…じゃなくて…。

「…えっ?皮はむいて食べるかな、口の中でモゴモゴしながら」

唐突な質問とヨコシマな妄想に一瞬思考を止められたができる限りの即答をした。

「そう…じゃ、私と一緒ね」

「ってか、皮ごと食べれるの?これ」

「そういう品種もあるらしいわ、あまり詳しくないけど」

「へぇ、そうなんだ」

「それに…食べ方が違ってたらちょっと…」

「…ちょっと?」

「…なんでもない」

そう言ってパクっと口の中に巨峰を放り込んだ。

こういう時の「なんでもない」は大抵恥ずかしがっている。

彼氏の前だと葡萄の食べ方一つでも気にするところが

なんだか意外でもあり、それがまた可愛らしくもある。

「ん…すごく甘い」

「だろ?ばーちゃんの巨峰、けっこう評判いいんだ」

自慢げに言ったその瞬間、僕の視線は卜部の口元に釘付けになった。

卜部のぷるっとした唇の間から皮がつまみ出される。

それが取り皿に置かれると今度はそっちに目がいってしまう。

(よだれ付きの皮…)

(皮ごと食べられる品種じゃなくてもこれなら皮だけでも…)

「…椿くん?」

「はいっ!」

(いかんいかん、またヨコシマなことを…)

「今…私のよだれが付いた皮を舐めてみたいって思ってたでしょ」

(…バレバレです)

「う、うん…ごめん…」

「別に謝る必要はないわ、それに…」

白くてキレイな手が熟れた巨峰の房からもう一粒もぎ取る。

それをまた口に放ると僕に四つん這いで近づいてきた。

「皮だけひゃほいひふはいわよ(皮だけじゃ美味しくないわよ)」

そう言って口をモゴモゴとさせながら黄緑色の艶やかな実を覗かせた。

卜部はそのトロリと濡れた果肉をつまみ出すと僕に差し出す。

「はい、これ」

「あ…ありがと…」

パクっ

…もぐ…もぐ…

卜部のよだれでコーティングされた葡萄の実。

予想はしてたけど、こんなに甘いものが世の中にあるなんて。

「す、すっごく甘くなったよ!いつもの10倍、いや100倍くらい!」

「おおげさね」

「そんなことないよ!でも…」

「…でも?」

「口移しだったらもっと甘くなるのかなー…なんて…」

「……」

「…な、なーんて、嘘!嘘だから!冗談冗談!!」

「いいわよ」

「え?」

「今度、椿くんの実家に連れて行ってくれたらその時、ね」

「あ…うん!」

(卜部が実家にかぁ…それってもう結婚前提ってやつ?)

想像すると思わずニヤけてしまった。

でも、いつかそんな日も来るんだろうな…

それまでにはちゃんとキスまでは…!

なんてことを考えてたら思わず手に力が入り

持っていた葡萄の果肉が皮から飛び出して僕の顔に当たった。

その時卜部がクスっと笑ったように見えた。

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