「これは…」
引越しの荷造りをしている最中に懐かしいものを見つけた。
(もう5年か…)
押入れの奥に眠っていた段ボール箱から取り出し、広げた1枚のポスター。
“― 正体不明の恋愛映画 ― 謎の彼女Y”
「そういえばこんなこともあったっけなぁ」

あの頃は何故だか面倒事や誘惑が多くて、おれや美琴にとっては試練の1年だった。
それを乗り越えて二人の絆を再認識した時、おれには彼女しかいないと確信した。
―「最初で最後の彼女になれたらいいな、って思ってるわ」
美琴はそう言って、フラフラと揺れ動くバカなおれの気持ちを最後まで信じてくれた。
もう彼女を不安にさせたり悲しませたりするようなことはしない。
なんたって…これから2人だけの生活が始まるんだから…!!

おれたちは高校卒業後、都内の違う大学に通った。
それでも毎日どこかで会ってはあの“日課”を続けていた。
“日課”も今となってはキスに至っている。
ようやく恋人らしいこともできるようになったのだが…
まぁ、その辺の話はまた後日に。

2人の就職活動も順調に進み、たまたまお互いの職場が近かった…
ということもあってなんと美琴と一緒にアパートを借りて住むことになったのだ。
早い話が同棲生活!
この春からどんな日常を送ることになるのか…
謎の期待と不安に駆られながらもようやく荷造りを終えた。

そのタイミングを見計らったかのように携帯が鳴った。
美琴からだ。
「明くん?こっちはもう終わったわ。そっちはどう?」
「あぁ、これから行くよ、新居で待ってて」
「…うん、待ってる」

おれは急いで親戚から借りた軽トラに荷物を詰め込み、
彼女の待つ愛の巣へと向かった。
「新居とは言ったものの…」
着いた先はお世辞にもキレイとは言えない古めのアパート。
おれ自身、美琴と暮らせるなら特にこだわりはなかったが
美琴は2LDKを強く希望していた。
どうやらお互い別々の部屋が必要らしい。
(同棲してもやはり一線引かれるのか…)

「よーっす!椿ぃ!」
メガネをかけた長身のニヤけた男がそう言ってこちらに歩み寄る。
上野公平、高校時代の同級生だ。
「椿くんっ!卜部さんの荷物、全部運んどいたよっ」
その隣にいる背の小さいメガネっ子が丘歩子、同じく元クラスメイトだ。
この2人はおれたちと違って互いに同じ大学に通い、付き合い続けていた。
上野からは事あるごとに丘とのノロケ話をメールで報告されてうんざりだったが…
「悪いな、手伝ってもらって」
「いいってことよ!その代わり6月の結婚式にはちゃんと来いよ、椿!」
そう、この二人は近々入籍する。
長く付き合っているのは分かっていても友人が結婚となると何だか不思議な感覚になる。
「分かってるって、じゃあ次はおれの荷物もよろしくな」

「明くん、私も手伝うわ」
前髪で相変わらず表情を隠している卜部美琴、おれの彼女がアパートから現れた。
引越し作業ということもあってTシャツにジャージという軽装だ。
「お、サンキュ美琴。そっちは早かったんだな」
「ええ、丘さんたちが手伝ってくれたから」
「そっか、おれの荷物はそんなに多くないからすぐに終わるよ」
「そう、それじゃあ始めましょ」

…結局4人がかりだとあっという間というか、呆気無く終わってしまった。
「何だか拍子抜けしちゃうくらい早く終わったねー」
一番張り切っていた丘が汗一つかかずに言った。
「確かに、これだけ人手がいるもんな。おかげで助かったよ」
「丘さん、上野くん、ありがとう」
「これくらい全然お構いなしよ、卜部さんっ」
「それよりさぁ…」
上野が不思議そうな顔をして口を開いた。
「家電はどうするんだ?洗濯機とか冷蔵庫とか荷物になかったぞ」
「あぁ、それならもう買ってあるよ、今日の夕方頃に配達される予定だけど…」
時計を横目で見やるとまだ正午も回っていない。
「うーん…だいぶ時間が余っちゃったねー」
「そうね…ちょっと早いけどお昼にする?引越しそばじゃないけど近くに美味しいラーメン屋があるわ」
「ラーメンかぁ、いいねぇ」
上野がよだれを垂らして卜部の話に食いついた。
「手伝ってくれた2人の分は私たちが出すから、明くん…それでいいわよね?」
「あぁ、もちろん」
「それじゃあお言葉に甘えてごちそうになっちゃおか、公平くんっ」
「ごちになりまーす!」

それから日が沈みかかる頃まで4人のダブルデートが始まった。
とは言ってもほとんど丘に美琴を独占されていたのだが…
ラーメンの後は辺りの街で日用品などの買い物にも付き合ってもらった。
「あ!卜部さーん、シリコンスチーマーは絶対あったほうがいいよー!」
「私にも使えるかしら…」
「蒸しベーコン巻きもヘルシーで簡単にできちゃうんだから!今度一緒に作ろっ!」
「そうなの?じゃあこれも買っておくわ」
(女子たちは楽しそうにやってるな…)
ぼんやりとその辺の商品を適当に眺めていると上野がヌッと顔を近づけてきた。
「しかし椿ぃ…お前もとうとう彼女と一つ屋根の下で暮らすんだなぁ」
鼻息の荒いニヤケ顔がおれをからかう。
「…まぁ、おれたちも長いからな」
正直どんな生活になるのかは全くもって不明だが…
「なーに!心配すんなって!おれが恋のアドバイザーとしてしっかり支えてやるからな!」
「その心遣いが心配なんだよ」
確かにこの2人は大学時代から半同棲していたから参考にならなくもないとは思う。
「遠慮すんなって!それにさぁ…2人で暮らすってのはいいぞぉ…」
上野の顔がますますひどくなっていく。
「なんたって2人の距離が一気に縮まるからな!あんなコトやこんなコトも…」
「分かった分かった、もう散々メールで教えてもらってるよ」
「ただなぁ、椿」
だらしない表情が突然、真剣な顔つきになった。
「な、何だよ」
「距離が縮まるってことはそれだけ隠し事もできないってことだ」
「あぁ、なるほどな」
おれは特に隠し事を持っていないが、美琴はどうだろう。
5年も付き合っていて未だに謎の部分が多い。
2人で暮らすことで美琴のことがもっと分かるようになるのだろうか。
「何かやましいことがあればすぐにバレるから気をつけろよ…女の勘は怖いぞ」
「お前…何かやましいことでもしたのか…?」
「しっ…してねぇよ!おれはあゆ一筋なんだぞ!」
明らかに挙動がおかしいが、まぁ詮索はしないでやろう。

「それはそうと椿」
「今度は何だよ」
「2人ともそれぞれが自分のベッドを持ってきてたけど一緒に寝ないのか?」
「ゲホッゲホッ…!」
痛いところを突かれた。
おれも最初は同じベッドで寝るものだと思っていた。
物件探しの時、美琴が2LDKを推してきた辺りから「おや?」とは感じた。
―「明くん、部屋はそれぞれあった方がいいわよね…?」
その時のおれは美琴と暮らすということであまりに浮かれ、二つ返事をしてしまった。
しかしまさかこういうことになろうとは…
「まぁ…同棲というか、ルームシェアみたいなもんだよ、はは…」
自分で言って何故だか惨めな気持ちになった。
「ふーん……とは言っても夜には…『今日はどっちの部屋で寝るぅ?』とかだろ?」
だったらいいのだが…今はこいつのニヤケ顔が妙に気に食わない。
おれはわざとらしく腕時計を見た。
「そろそろ帰らないと配達が来ちゃうかもな」

上野たちと別れた後、おれと美琴はアパートへ帰った。
―202号室、玄関のすぐ左手のドアはトイレ。
真っ直ぐ廊下を歩くと突き当たりにドアが3つ。
左手は風呂場と脱衣所、右手はおれの部屋で6帖の洋室。
正面にはリビングダイニングキッチンがあってその先はベランダ。
リビングに入って右手のもう一つのドアが美琴の部屋で6帖の洋室だ。
美琴の部屋からもベランダに行ける間取りになっている。

おれはリビングに置かれた段ボール箱の間で大の字になった。
「あー…疲れたぁ…」
「そうね…朝からずっと何かしてたから…」
美琴は寝転がったおれの脇に座った。
「…」
「…」
改めて二人だけの空間で二人きりになると不思議な感じがした。
「みっ…美琴…これからもよろしくな…」
「うん…よ…よろしく…」
「…」
「…」
(な…何を話せばいいんだ?一緒に暮らす男女ってどんな会話をするんだ…?)
5年も付き合っているはずなのに何故だか気まずい。
付き合って間もない頃のような気持ちを思い出して美琴の方を見た。
美琴はモジモジと段ボールの隅を突っつきながらおれの視線に気づいた。
「わ…私、自分の部屋がまだ片付いてないから…」
「あ…あぁ、おれもだ」
そう言って二人ともそそくさと各々の部屋に逃げ込んだ。

(参ったなぁ…この先こんな感じで上手くやっていけるのかな…)
おれはベッドに倒れこみ見えない未来予想図を必死で探った。
しかし考えれば考えるほどモヤモヤした気持ちが広がるばかりだ。
「…考えてても仕方ない…!」
無心で段ボール箱から衣類や本を取り出してはクローゼットや本棚に詰め込んだ。

「…終わったかな…」
あらかた片付けた後、おれは荷物が積まれたリビングに向かった。
(こっちも片付けないとな…)
作業に取り掛かろうとしたところで美琴が部屋から出てきた。
「あ、美琴。そっちも終わったのか?」
「えぇ、リビングもやるんでしょ?一緒にしましょ」
こうして美琴と二人だけの共同作業が始まった。

ソファにテーブル、キャビネット、テレビなどの大きな家具を大体の位置に置き、
あとはそれぞれで細々としたものを片付けに入った。
「明くん、この掛け時計はあそこでいい?」
「あぁ、高いけど届くか?」
美琴は踏み台に上って壁の高いところにフックネジを取り付け、時計を掛けた。
「うん、だいじょう…キャッ…!!」
突然、踏み台がグラつき美琴は倒れそうになる。
「美琴!」
バランスを崩した美琴の身体を後ろから抱きしめるように受け止めた。
が…咄嗟のことだったのでおれも美琴も一緒にそのまま尻もちをついてしまった。
「痛てて…だ、大丈夫か?」
「わ…私は大丈夫…明くんは…?」
「うん、これくらい平気だよ」
「そう…ところで明くん、これはわざと?」
「ん…?」
気がつくとおれは美琴の胸をしっかりと鷲の如く掴んでいた。
「あ…ご、ごめん!」
すぐに手を離すと無意識に降参のポーズをとった。
美琴はクスッと笑って顔だけちらりとこちらを振り向いた。
「いいのよ、私のこと助けてくれたんだから」

改めておれは自分の心臓がドキッとしたのを確認した。
二人だけの空間、密接した距離、邪魔するものや気にするものは何もない。
辛抱できずにおれは美琴の背後から言った。
「美琴…日課、まだだよな…」
「…うん」
美琴は恥ずかしそうに少しうつむきながら正面をこちらに向けた。
(初めてのキスってわけでもないのに…何でこんなにドキドキするんだ?)
お互い床に膝をついて向き合い、おれは美琴の身体を出来るだけ優しく抱き寄せた。
二人の距離がさらに縮まると美琴もおれの背中に両手を置く。
おれの右手が美琴の背中から首筋を通り後頭部に添えられた。
そして目を閉じた彼女の唇に、自らの唇をゆっくりと重ねる。
「クチュッ…」
「…んっ…」
美琴のよだれが舌を介して「甘み」となって伝わってくる。
それにしても今日の分はやたら甘い。
「んんっ…ハァ…んっ…」
美琴の息が荒くなるにつれてその甘さはますますとろけそうなほどになっていく。
おれの右手は彼女の左耳へと移っていた。
自分の意志か、もしくは美琴がそうさせたのか…そんなこと今はどうでも良かった。
耳の裏を触れるか触れないかの力加減でそっと撫でる。
「…ぁ…んっ…」
美琴の身体はビクッと震え、息を漏らす。
おれはそのタッチのまま耳たぶや耳介を執拗に撫で回していった。
彼女は小刻みに震えながらギュッと強く抱きついてくる。
その反応に満足しながら今度は強く耳をつまんでみる。
「ぁ…」
一筋の涙が彼女の左目から流れ落ち、その雫が絡みあった舌に伝わる。
その甘さはおれの理性を吹き飛ばすに十分過ぎた。

唇が離れ、つながった透明の架け橋が崩れ落ちる間もなくおれは美琴を押し倒した。
「美琴っ!」
「あ…明くん…っ…んっ…!」
左手を美琴の頭の後ろに添え、右の耳を唇で挟んだ。
甘やかで蜜のような香りにおれの興奮はさらに高まる。
同時に右手を彼女の左脇から胸へと弄ばせた。
「ハァ…ん…ぁ…」
美琴は涙をこぼしながら必死で声を抑えている。
彼女のブルブルと震えた身体が弛緩し、また緊張する。
その表情と反応がこの上なく愛おしく、おれは再度キスをしながら強く抱きしめた。
「…あ…明くん…」
「美琴…もっと顔見せて…」
おれは彼女の前髪をそっと上げた。
「ゃ…恥ずかしい…」
涙目の美琴が赤らめた顔で目をギュッとつむりながら横を向いた。
「…可愛い」
「…バカ…」
横を向いて上になった彼女の左耳を舐める。
「ひぁっ…!」
油断していたのか美琴は一瞬強く身体を震わせ、涙目で声を漏らした。
「もぉ…意地悪…」
いつもは強気な彼女だが、弱点を突かれるともはや抵抗できない小動物のようだ。
そのギャップが美琴の最高に可愛らしい面でもある。

おれは美琴の背中に手を回し、服の上からブラのホックを抓んで外す。
「…あっ…」
美琴が小さく声を上げると同時に彼女のTシャツを捲り上げその豊かな乳房を堪能する。
餅のように白く柔らかく、それでいてさらっとした触り心地。
その双頂には薄いピンクの可愛らしい乳首が既に直立して出迎えている。
おれは歓迎に応えるようにまずは軽くその周囲を抓み、焦らしていった。
「…ぅ…んっ!…ハァ…」
直立した部分には敢えて触れず、その周囲のみを執拗に舐め回す。
「…ぁ……んんっ…!…ゃ…ぁぁ…」
美琴の身体がモジモジと落ち着きが無くなってきた。
(そろそろいいかな…)
舐め回していた舌先で勃っていた乳頭部をピンッと弾いてみた。
「…ひゃぁんっ…!!」
思わず大きな声を出してしまったことに恥ずかしくなったのだろう、
美琴は顔を真赤にしておれの背中でシャツをギュッと強く握った。
おれはそのまま甘く噛み、舌先でクニクニと刺激を与え続けた。
「…ふ…ぁ…ンッ…」
彼女は懸命に声を殺しながら口から一筋のよだれを垂らした。

「…こっちの方もよだれを垂らしてるんじゃない…?」
おれはいたずらっぽくそう言って美琴の下半身に手を這わせてみた。
「…っ…そんな…こと…」
下のジャージをゆっくりと降ろしていく。
美琴のくびれた腰から滑らかな美しい曲線美がぷるんと露わになった。
「あと…これは没収」
パンツと腰に挟まれたハサミに手を掛ける。
「…だ…ダメっ…!…あっ…!」
問答無用にすっとハサミを抜き取り彼女の手の届かない場所へ置いた。
「ゃ…!見ないで…!」
いきなり美琴はバッとおれを強く抱き寄せた。
すぐ目の前に来た彼女の顔はさらに紅潮している。

「はいはい」
そう言っておれは美琴にキスをし、より甘みの増したよだれを味わった。
「んっ…」
同時に胸が高鳴り自分自身の顔も身体も火照ってくるのがよだれを介して伝わる。
「…ん…ハァ…美琴…今すっごく恥ずかしい…?」
「ぃ…言わないで…」
ハサミを失ったパンツ姿は未だに見られたくないようだ。
おれはまた美琴と舌を絡め、そしてゆっくりと彼女の秘所へと指を這わせる。
「…ぁんっ…!」
ビクンッと彼女の身体が波打ち反り返る。
案の定、美琴の秘部は布越しながらもしっとりと「よだれ」で濡れていた。
「ほら…やっぱり…」
「…んんっ…!ハァ…ゃ…ぁ…ハァ…」
美琴はきつくおれに抱きついたまま耳元で甘い吐息を漏らしている。
布地の上からごく小さな突起を手で探り当てた。
それに触れた瞬間、再び彼女の身体はびくんと波打つ。
「ぁ…明くん…私……もう…」
「もう…?」
彼女が決して恥ずかしい言葉を口にしないことは分かりながらもわざとらしく聞く。
「…バカ……んっ…意地悪…なんだから…」
愛撫し続けられる美琴の下半身はふるふると小さく悶えている。
(可愛い…)
おれは無言のまま「よだれ」で濡れた下着に手を掛けた。

ピ――――――ンポ――――――ン
「椿さーん!配達でーす!」
「!!」
「!!!」
お互い反射的に飛び上がり慌てて身繕いする。
なんというタイミング…いや、時間指定したのは自分なのだが…。
美琴が自室に逃げ込むのを確認して玄関へと向かう。
しかしおれの下半身はまだ臨戦態勢のまま落ち着いていない。
「椿さーん!いらっしゃいませんかー?!」
「は、はーい!今出まーす!」
(くっ…仕方ない…)
ガチャ。
作業服を着た2人の中年の男が玄関前に立っていた。
「〇〇電器様よりお届け物にあがりました。取り付けの方も致しますがよろしいですか?」
「は…はい、よろしくお願いします…。どうぞどうぞ…」
配達員からみれば文字通り「腰の低い」住人に見えただろう。
不自然な姿勢のまま洗濯機や冷蔵庫を運ぶ彼らを迎え入れた。
「冷蔵庫はどちらに置きましょうかー?」
「あ…えーと…」
「あそこにこちら向きでお願いします」
いつの間にか美琴が部屋から出てきて配達員に指示を出していた。
まるで何事もなかったかのように落ち着き払った様子で。
そして妙な体勢のおれをいつものジトっとした目で一瞥する。
立つ瀬がないおれは只ただ小さくなっていくのだった。

いったいこの先、どんな生活になるのだろうか。
おれたちの謎の同棲生活がこれから始まろうとしていた…。

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