日課のよだれを指ではなく口で移すようになって、どれくらい経っただろう

初めは単によだれの摂取のみといった風の短い口づけだった

そんなよだれ摂取という目的と、そのための口づけという手段が入れ替わってからどれくらい経っただろう

「椿くん、今日の分」

卜部は咥内によだれをため、少しだけ顔を上に向け椿を待つ

差し出されなくなって久しい右手は、鞄を持つ左手と共に少女らしく組まれている

「...うん」

椿は促されるように卜部の両肩を手でつかむ

いつだってこの瞬間はドキドキする、と椿は思う

否、卜部といるといつもドキドキしっぱなしなのだが

椿はフッと息を整え、卜部と口づけをする

卜部からよだれが椿へと垂れ込み、「日課」はこれで終了である

それでも二人は唇を離さない

椿の舌が卜部の方へと入ると、待ちわびていたかのように卜部の舌も椿の方へと入る

狭い咥内でひしめき合う舌同士だが、決して邪魔だとは感じず、むしろ押しつけ合うように動かす

その度に痺れるほどに甘みと熱さが脳を犯し、二人の理性を塗りつぶす

卜部の前歯の裏を舐める椿、いつか噛まれた痛みを思い出し、指が熱くなる

椿の頬の裏を舐める卜部、いつか頬を切ったことを思い出し、慰めるように舌を這わせる

「んっ...」

卜部が漏らした吐息にくすぐられ、椿は自身が息をすることも忘れていたことに気づく

思わず口を離し、それからしまった、と感づく

あくまで「日課」の延長であるこの行為は、口を離すとそこで終了、という暗黙の了解ができている

それは恥ずかしさと青臭さからくる「日課」としてのラインだ

「卜...部...」

そのラインも、今日越えることになる

「椿...くん...」

前髪の隙間から見える、卜部の熱のある瞳に見つめられ

「卜部...キス、がしたい」

「...私も」

言うやいなや、卜部はその口をふさがれる

「日課」ではない初めての「キス」

「ぁぶ...ぅ」

嬉しさのあまり、卜部の口から大量のよだれが溢れ出る

椿の口へと流れ込みながら尚も止まらず、二人の口許を濡らしこぼれ落ちる

しかし二人は意に介さず、唇で、舌で、よだれで、全てでキスを味わう

熱く溶け、朦朧とする意識の中で、息もできず

それでも離れたくない、記憶に残したい初めてのキス

このまま溺れるのも悪くない、と二人はいつまでも甘く交わるのだった


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