「はい、椿くん、今日の分…」
放課後の日課。
美琴の唾液に濡れた人差し指が眼前に差し出される。
明はそれをゆっくりと口に含む。
ここまでは普段と変わらないいつもの光景である。
異変に気付いたのは美琴だ。
「ちょっ…椿くん?」
いつもならもう指を口から離すタイミングなのだが、明はいつまでも美琴の指を口の中に入れたままだ。
美琴は自分から指を抜こうとした。
しかし明はチュウチュウと指に強く吸い付いて離れようとしない。
「なっ…」
さらに明は、指先をペロペロと舌で嬲り始めた。
「あっ…」
くすぐったさに思わず美琴の口から声が漏れる。
「椿くんもう止め…」
美琴の声には耳を貸さず、あろうことか明は美琴の手首を両手で掴むと、指を唇でくるんだまま、顔を前後に動かしてちゅぽちゅぽとしゃぶり出した。
「ああん…」
今まで体験したことのない妖しい快感に、美琴は一瞬我を忘れそうになった。
バコーン!
次の瞬間、美琴が左手に持った鞄が一閃した。
「…っ!」
右頬に重い一発を喰らい、明は尻餅をついた。
「調子に乗らないで!」
美琴は一声叫ぶと、全力で走り去っていった。
「卜部…俺…」
明はその後ろ姿を見送るしかなかった…
* * *
遡ってその日の昼休み。
公平が明にニヤニヤしながら耳打ちしてきた。
「おい椿…俺とうとう丘にフェラしてもらっっちゃったよ…」
「な…何ぃ!?」
明は飲みかけの牛乳を吹き出しそうになった。
フェラチオ…思春期の男子にとっては憧れであり、夢の行為である。
それを彼女にしてもらったと公平は言っているのだ。
「昨日どうしてもエッチしたい、もう我慢出来ないって頼んだらさ…『今日は生理だからダメ、その代わり…』って…」
「…」
明は黙って公平の惚気話に付き合うしかなかった。
「気持ちよかったぜぇ…口ん中に出させてくれて…魂が吸い取られるような快感って、ホントだったんだな…」
緩みきった表情で、遠い目をしながら公平が回想する。
(こいつら…そこまで進んでたのかぁ…)
翻って自分と美琴のことを考えると、ボディタッチや抱き合ったりすることはあっても、どれも偶然の産物であり、そこからちっとも進展する気配はない。
それどころか手さえ自由には握らせてもらえないのだ。
なのに毎日指に取った唾液を舐めさせてもらっているという歪な関係である。
この日の指フェラは、明なりの美琴に対するメッセージだったのだ…
* * *
「はああ…俺ってしょうもないな…」
家に帰った明は、ベッドに寝転がると、ため息まじりに呟いた。
強烈な一撃をくらった右頬がまだ痛む。
「卜部ぇ…好きだ…」
例え殴られても、美琴に対する想いは増すばかりだ。
こんな落ち込んだ独りの時、股間に手が伸びるのは男の子の性である。
頬の痛みを感じながらジュニアを撫で摩る。何やら痛みすら行為への甘い誘いだったように思えてくる。
ジュニアの容積が次第に増してくる。
「ああ…卜部…うう…」
快感が高まり、明の呼吸が次第に荒くなっていき、扱く手の動きがだんだん早くなってくる。
「もう…イク…うっ!」
慌ててティッシュを手に取り、股間にあてがう。
ぎりぎりのところで布団に精液をこぼすのは免れた。
薄れていく快感の中で明は、
(卜部にフェラチオされたら…どんなに気持ちがいいんだろう…)
と、ぼんやりと考えていた…
* * *
同じ時刻。
家に帰った美琴は、制服から着替えもせず、ベッドに体を投げ出していた。
「はああ…ちょっとやり過ぎだったかな…」
明にしゃぶられた人差し指が、まだ少しふやけている。
「椿くん、大丈夫だったかしら…」
後ろも振り返らず、全速力で走った。
普段見せたことのない明の大胆な行動に、美琴は心底びっくりしてしまったのだ。
「あんなことするなんて…椿くんのバカ…」
指先に、明の舌と唇による愛撫の感覚が残っている。
思い出すと、何だか体が火照ってくる。
「あ…」
乳首が触ってもいないのに尖ってきたのが感じられる。
どうしても確かめたくなって、制服の下の方から左手を入れて、直接触ってみた。
「あん…」
微弱な電流に似た快感が走り、美琴はぴくりと体を震わせた。
…実は美琴も、昼食の際に歩子から上野にフェラチオをしたという告白を聞いていたのだ。
* * *
「え…フェラチオ?」
「うん。した。」
歩子は、ベーコン巻きソーセージを無邪気に頬張りながらあっけらかんと言った。
そのおちょぼ口な唇が、ぬめぬめと脂に濡れてやけに艶かしく見える。
「上野くんが、どうしてもエッチしたいって聞かなくて。生理だって嘘ついて。でもあんんまり我慢ばっかりさせてるのもかわいそうだったから…」
した本人よりも聞いている美琴のほうが赤面してしまう。
「…でも…嫌じゃなかった…?」
「うん。最初はちょっと勇気いったけど…してみたらそんなに嫌じゃなかった。飲んじゃったし。」
「えー?」
「おいしくはないけど、気持ち悪いってほどでもなかったよ。それに…」
「何?」
歩子が美琴の耳元に唇を寄せてささやいた。
「…家に帰ってから思い出したらなんだか興奮しちゃって…独りエッチしちゃったの…」
美琴は返す言葉が見つからず、目を丸くするしかなかった。
「でもいつかきっと卜部さんも椿くんにする日がくるよ…そんな大してヘンタイなことじゃないよ、フェラって。」
「えーそうかなあ…」
言いながら美琴は明の顔を思い出してみたが、そういう行為をしているイメージは浮かんでこなかった…
* * *
「椿くんが悪いのよ…あんなことするから…」
美琴は右手をショーツの中に滑らせていった。
「あん…濡れちゃってる…」
美琴は明の指フェラの動きを一つ一つ思い出していた。
(いつかわたしも…あんなふうに…椿くんの…おちんちんを…)
「あぅ…気持ちいい…」
さっき明に舐めしゃぶられた人差指で、一番敏感な肉芽をこすり上げると、美琴の性感は一気に高まってきた
「あん…イク…イクぅ…」
美琴はクリトリスへの軽い刺激であっと言う間に達してしまった。
「椿くん…好き…」
荒い呼吸の中で、美琴は自然につぶやいていた…
* * *
次の日の朝。いつものように顔を合わせた二人は、とりあえず挨拶を交わした。
「あっ…おはよう、卜部。」
「お、おはよう、椿くん。」
どうしてもいつもよりぎこちなくなってしまう。
しばらく無言で、二人は通学路を並んで歩いた。
「昨日はごめん…あんなことして。」
先に口を開いたのは明だった。
「ううん私こそ…大丈夫だった?」
「うん、平気だよ…うら」
「ねえ椿くん!」
明の言葉を遮り、美琴が敢えて明るい調子で語りかけた。
「今度の日曜日、うちに遊びにこない?例によって誰もいないから。」
「…え?…うん、いくいく!」
明はすっかり元気になって笑顔で答えた。
美琴は少しだけ頬を赤らめていた。
照れ隠しなのか、美琴は急に走り出した。
「お、おい、待てよ卜部!」
「椿くん、急がないと遅刻しちゃうよ!」
明の視線の先に、いつもと変わらない、少しだけ変わった美琴がいた…
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